※本記事は薬剤師が執筆しております※
グルコン酸は、現在様々な食品や医薬品にも使用されていて、元々は体内でブドウ糖が酸化して発生する物質です。食品にも多く含まれており、生体内にも存在する身近な物質なのはご存じでしょうか。
意外と身近な存在のグルコン酸は、どんな働きを持っているのか、体に良いものなのか気になる方も多いと思います。
実は、グルコン酸は幅広い用途に使用されているのですが、持病のある方には注意しないといけない物質でもあります。
今回は、グルコン酸の効果や副作用、どのような用途で使用されているのか幅広く説明していきます。
目次
- グルコン酸とは?
- グルコン酸の効果と働き
- グルコン酸の副作用【過剰摂取】
- 薬との相互作用
- グルコン酸の用途は幅広い
グルコン酸とは?
グルコン酸は、ハチミツやローヤルゼリー、大豆、椎茸等の天然物やお酢、ワイン、味噌等の発酵食品にも多く含まれている有機酸です。実は、日本人にも馴染みがある物質です。
有機酸の仲間には、クエン酸や乳酸があるのは有名ですが、グルコン酸は唯一食品添加物として使用されている有機酸になります。
ブドウ糖を酸化するとグルコン酸が生成されるので、構造的にはブドウ糖とよく似ていて、オリゴ糖やトレハロースと似たような働きをすることが分かっています。
グルコン酸の特徴
グルコン酸はブドウ糖を酸化することで生成するカルボン酸です。
マイルドな酸味があり、揮発性はありません。食品のpHを安定させる目的で使用されています。酸味がクエン酸の1/4程度で、まろみがありマイルドな酸味で臭いはあまりありません。グルコン酸を食品中に添加しても、風味を損なう心配はありません。
また、グルコン酸はブドウ糖と比較して小腸からの吸収率は1/5程度です。大腸に到達したグルコン酸は、ビフィズス菌を増やす性質があります。
ビフィズス菌は腸内環境を改善、お腹の動きを良くし便秘を予防する、免疫力を高める効果があり、発がん性物質の産生を抑える等、健康に大きく関わっている物質です。
グルコン酸とグルコノラクトン
グルコノラクトンは、室温条件では固体で存在しており、水に溶かすと少しずつグルコン酸に変化していきます。グルコン酸に変化することで、水溶液はゆっくりと酸性になっていき、温度を上げることで反応速度が上がります。
この性質から、グルコノラクトンは加熱した豆乳や牛乳に入れて均一な豆腐やチーズを精製することに利用されています。
グルコン酸の水溶液を脱水すると、グルコノラクトンに戻ります。
グルコン酸の種類
グルコン酸の多くは、ブドウ糖を発酵させてグルコン酸ナトリウムを精製後、グルコン酸カリウム、グルコン酸鉄、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅をそれぞれ精製しています。効果や用途は様々で、使用基準も異なりますので取り扱いには注意が必要です。
それぞれの効果や用途について、詳しく見ていきましょう。
グルコン酸の効果や働き
グルコン酸は発酵、脱水、造塩等の工業的製法から、様々なグルコン酸類を製造しています。ここでは特に代表的なグルコン酸類の特徴、効果や働きを説明していきます。
グルコン酸カリウム
グルコン酸カリウムは、添加物として食品中の臭いをマスキングしたり、食塩の代替品として減塩目的で利用されています。
医療用では低カリウム血症時のカリウム補給に利用されていて、グルコンサンKという名称で販売されています。グルコンサン Kには錠剤、細粒があり、細粒は水によく溶けるので嚥下困難な方にも適した剤形として医療現場でよく処方されています。
グルコン酸亜鉛
グルコン酸亜鉛は、亜鉛補給の目的で粉ミルク等の母乳代替食品にのみ添加することが許されている成分です。
亜鉛は微量元素と言われており、人間の体内に約2g含まれています。非常に少ない量ですが、臓器や筋肉、骨等の多くの器官に分布しており、重要な働きをしています。
また、亜鉛は酵素たんぱく質の合成に必要な物質で、生体内の反応に欠かせない物質です。アミノ酸からタンパク質、DNAの合成、肝臓、腎臓、膵臓、睾丸等の新しい細胞を作る時に亜鉛は必須で、免疫反応、味覚にも大きな働きを担っています。
男性妊活サポート
亜鉛が体内で不足してしまうと、味覚障害、免疫力の低下、成長障害の他に生殖機能への障害が起こりやすいです。亜鉛は精子や男性ホルモンの生成に深く関係しており、亜鉛不足になると精子の濃度や運動率が悪化し、男性不妊の大きな原因になります。男性妊活と亜鉛は切っても切れない関係なのです。
日常では、亜鉛を意識して摂取することは難しいので、知らないうちに亜鉛が不足していることは珍しくありません。妊活をする方は、サプリメントで摂取したり、心配な場合は医療機関で亜鉛の血中濃度測定を行ってみるといいでしょう。
グルコン酸鉄
グルコン酸鉄は黒色の粉末で水に溶けやすい物質です。
オリーブを光沢のある黒色に着色するための添加物に使用されています。
また、赤ちゃんの粉ミルク、離乳食や妊産婦、授乳婦の粉ミルク食品の鉄分強化目的に使用されている添加物です。
グルコン酸塩
グルコン酸塩は消毒薬として使用されており、クロルヘキシジングルコン酸塩として流通しています。消毒薬の中ではビグアナイド系に分類され、殺菌力は細菌には効果を発揮しますが、真菌には効果が低く、ウイルス、結核菌には無効で、エタノールより劣ります。
皮膚への刺激が少なく、塗布後は皮膚内に留まって長時間効果を発揮する特徴があります。アルコール類で皮膚が赤くなりやすい方にも使用可能な消毒薬です。
グルコン酸ナトリウム
グルコン酸ナトリウムは食品のマスキング、低塩食品加工、化粧品、医薬品の安定性保持目的で添加物として多用されている成分です。
化粧品や医薬品は金属類が存在すると、品質の劣化が早くなってしまいます。製品の安定性を保持するために、グルコン酸ナトリウムは金属類が反応するのを防ぐキレート剤として使用されています。
グルコン酸の副作用【過剰摂取】
グルコン酸は様々な食品や医薬品類に使われている物質ですが、過剰摂取することで重篤な副作用が起こるので注意が必要です。過剰摂取で起こる副作用を見ていきましょう。
グルコン酸カリウム
グルコン酸カリウムは大量に摂取することで、高カリウム血症を起こします。
カリウムは骨格筋や横紋筋、心筋にも分布し、不整脈等の心臓伝達系、呼吸に重篤な影響を与えてしまいます。
未治療のアジソン病や、腎機能が低下している人が摂取すると、予想異常にカリウム濃度が上昇するので服用は控えた方がいいでしょう。
グルコン酸亜鉛
グルコン酸亜鉛は過剰に摂取すると、亜鉛の中毒症状が出てきます。
腹部の痙攣、悪心、嘔吐、下痢、食欲不振、頭痛などが急性症状として現れて、しばらくすると泌尿器、生殖器疾患が慢性症状として出現してきます。
また、亜鉛の過剰摂取は銅の吸収を阻害するので、銅が欠乏してしまいます。銅欠乏症になると、貧血、白血球や好中球の異常、成長障害、神経障害が起こります。
グルコン酸鉄
グルコン酸鉄を過剰に摂取すると、鉄の中毒症状が出てきます。
鉄を過剰に摂取すると、胃のむかつきや嘔吐、腹痛等の消化器症状を始め、重症になると失神、痙攣、多臓器不全になることがあります。
グルコン酸鉄は主に、妊婦産婦、授乳婦のサプリメントに配合されており、子供の誤飲による過剰摂取が問題です。また、鉄を過剰に摂取すると亜鉛の吸収が悪くなり、体内の亜鉛が不足するので注意が必要です。
妊活への影響
グルコン酸類を過剰に摂取することで、妊活、胎児に悪影響が出ている報告はありません。グルコン酸カリウム、グルコン酸鉄、グルコン酸亜鉛はサプリメントとして販売されていますが、過剰に摂取することで中毒症状が報告されているので、必ず用法用量を守って適量摂取しましょう。
高カリウム血症の場合
体内の血中カリウム濃度が高くなっている高カリウム血症の場合、グルコン酸カリウムを服用すると、血中カリウム濃度がさらに上昇してしまいます。
高カリウム血症が軽度の場合は特に自覚症状はありませんが、高度になるほど、脱力感、しびれ、吐き気、胃腸障害、不整脈が現れ、突然心臓の動きに影響が出てしまうので過剰摂取は禁物です。
心臓伝導障害の場合
高カリウム血症時には、心臓の細胞内のカリウムが細胞外に出ていかないので、細胞内にナトリウムが入ることができなくなってしまいます。
細胞内に十分なナトリウムが入らなくなると、心臓の筋肉が収縮できなくなります。心臓電動障害が起きると、胸が苦しい、息苦しい、不整脈が起きて、ふらつき、失神、さらには心停止を招く恐れがあります。
もともと、心臓伝導障害がある場合はカリウムは慎重に摂取する必要があります。
薬との相互作用
グルコン酸カリウム服用中は、MR拮抗薬、V2受容体拮抗薬と言われる利尿薬やARB、ACE阻害薬、β遮断薬と言われる降圧剤、鎮痛剤、心不全治療薬のジギタリス製剤と併用すると、予想以上にカリウムの血中濃度が上がることがあります。
どうしても併用する必要がある場合は、定期的に血中カリウム濃度を測定しましょう。
また、グルコン酸亜鉛と鉄は、テトラサイクリン、キノロン系の抗生物質と同時に服用するとキレートを精製してしまい、抗生物質、亜鉛や鉄の吸収を阻害してしまいます。
グルコン酸の用途は幅広い
グルコン酸は様々な食品、サプリメント、医薬品に使用されていて、身近な存在だということが分かりました。グルコン酸は工業的にグルコン酸ナトリウム、鉄、亜鉛、カリウム、グルコン酸塩等に精製され、用途は幅広いです。
特に、グルコン酸亜鉛は亜鉛補給に使用されていて、男性妊活に重要な成分になっています。グルコン酸亜鉛、鉄、カリウムはサプリメント、医薬品として販売されていますが、過剰に摂取すると危険なので、適量摂取を心がけましょう。
また、持病がある方、他に薬を服用している場合も思わぬ副作用が出ることがありますので、注意して活用していきましょう。