※本記事は薬剤師が執筆しております※
「妊活には亜鉛サプリをとったほうがよい?」「亜鉛の効果や1日どれくらいの量をとればよいか知りたい!」など悩んでいませんか。
亜鉛はカラダの成長や免疫維持などに働く、私たちのカラダに必須の栄養素です。また、生殖機能との関連も知られており、男性妊活のサプリにも含まれていることが多いです。ただ、亜鉛が欠乏すると成長遅延や味覚障害、生殖機能障害などの亜鉛欠乏症が起こることもあります。
本記事では、亜鉛の働きや亜鉛欠乏症、過剰摂取による健康被害について解説します。また、亜鉛の摂取量もあわせて紹介します。ぜひ、亜鉛の効果が気になる方は最後まで読んで参考にしてください。
⽬次
- 亜鉛とは?
- 亜鉛の摂取量【推奨・上限摂取量】
- 亜鉛の効果やはたらき
- 亜鉛を含む食材
- 亜鉛の摂取量やタイミング
- 亜鉛欠乏症の治療
- 亜鉛の過剰摂取による健康被害
- 亜鉛と薬の相互作用
- 適量の亜鉛を摂取することが大切
亜鉛とは?
亜鉛とは、細胞をつくるなど代謝をサポートする微量ミネラルです。亜鉛はカラダに約2gあり、骨や筋肉、血液、皮膚に多く含まれ、他にも脳や腎臓など全身に存在して酵素をつくる元となります。
亜鉛は、新しい細胞のつくり変えが正常に行われるためのサポートを行います。そしてホルモンやDNA、たんぱく質の合成、免疫反応の調節などに働きカラダを正常に保つためには欠かせない栄養素になります。
しかし、亜鉛はカラダの中では作ることができません。そのため、食事から摂る必要がある必須ミネラルになります。
亜鉛が不足すると、成長遅延や味覚障害、生殖機能への影響などが起きるため、亜鉛不足にならないための対策が必要です。
参考:厚生省労働省eJIM
亜鉛の摂取量【推奨・上限摂取量】
亜鉛は不足してはいけない栄養素の一つです。そのため、厚生労働省からも年齢別、男女別に食事推奨摂取量が設けられています。また、年齢以外では、通常時よりも栄養が必要な妊婦や授乳婦の推奨量もあります。
ただ、一方で亜鉛は過剰摂取に注意が必要なため、推奨量以外にも上限量も確認する必要があります。
年齢別の亜鉛1日摂取推奨量と上限量
年齢 | 摂取推奨量(男) | 摂取推奨量(女) | 耐用上限量 (男/女) |
---|---|---|---|
1~2歳 | 3 | 3 | - |
3~5歳 | 4 | 3 | - |
6~7歳 | 5 | 4 | - |
8~9歳 | 6 | 5 | - |
10~11歳 | 7 | 6 | - |
12~14歳 | 10 | 8 | - |
15~17歳 | 12 | 8 | - |
18~29歳 | 11 | 8 | 40/35 |
30~49歳 | 11 | 8 | 45/35 |
50~64歳 | 11 | 8 | 45/35 |
65〜74歳 | 11 | 8 | 40/35 |
75歳以上 | 10 | 8 | 40/30 |
妊婦/授乳婦 | +2/+4 |
参考:日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 厚生労働省
亜鉛の効果や働き
亜鉛は、細胞をつくるなど代謝をサポートすることで、傷の修復や子供の成長に役立ちます。他にもさまざまな健康維持の効果が知られています。ここでは亜鉛の効果を詳しく解説します。
- 男性妊活サポート
- 味覚の正常化
- 抗酸化作用
- 免疫力の維持
- 子どもの発育や成長
- 美肌、美髪対策
- 生殖機能への影響
- 傷の修復
- 精神への影響
- バストアップ
男性妊活サポート
多くの男性妊活のサプリに含まれている成分の一つが亜鉛です。亜鉛は男性の生殖機能に関わる精巣に多く存在し、精巣機能の発育や精子を作る過程で必要なミネラルになります。亜鉛欠乏により、精巣の発達障害や機能不全が起こるとされています。
また、男性機能と亜鉛の関係性を調べた研究報告は数多くあり、亜鉛が男性妊活のサポートになる成分として注目されています。妊活中の男性は、健康維持のためにも亜鉛不足にならないような生活習慣を意識してみるとよさそうです。
味覚の正常化
亜鉛不足で味覚がおかしくなると聞いたことがある方も多いと思います。食べ物の味は舌にある味蕾(みらい)で感じ取ることができます。亜鉛は味蕾の新陳代謝に関わることで味覚を正常に保つ働きを持ちます。
そのため、亜鉛が不足すると味覚異常が起こると考えられています。また、舌以外に鼻の働きにも関わり、嗅覚への影響も言われています。
抗酸化作用
亜鉛は、ビタミンAの代謝を促進することによる抗酸化作用が期待されています。ビタミンAは代表的な抗酸化物質のひとつです。
抗酸化作用とは細胞にダメージを与える活性酸素からカラダを守ることです。抗酸化作用のある物を取り入れることはアンチエイジングや生活習慣予防につながると考えられています。
免疫力の維持
亜鉛は免疫機能に関わる細胞の働きをサポートすることで、免疫力を維持します。免疫力とは、私たちのカラダにそなわっている、ウイルスや細菌からカラダを守る防御システムです。
免疫力が弱まると風邪など病気にかかりやすくなってしまいます。そのため、免疫力維持の効果がある亜鉛は、風邪予防のためにも不足させたくない栄養素のひとつです。
美肌・美髪対策
亜鉛は、皮膚や髪のもとになるたんぱく質の代謝をうながすため、肌荒れや髪のパサツキなどを改善する効果も期待されています。
亜鉛が不足すると肌や髪のトラブルにもつながります。そのため、健やかな肌・髪を保つためにも亜鉛不足にならないことが大切です。
子供の成長や発育
子供の成長や発育に不可欠な成分が亜鉛です。細胞を作る代謝のサポートを行うことで、身長の伸びに役立つ成分になります。
そのため、カラダがぐんぐんと成長する小児期には亜鉛が不足しないような食生活をおくることが大切です。日本人の食事摂取基準にある年齢別の1日推奨量も要確認です。
生殖機能への影響
亜鉛の多彩な働きの一つの中に、生殖機能への関わりがあります。
亜鉛は、幼児期の卵巣や精巣の発達に関わるだけではなく、卵巣や精巣が成熟した後にも大きく影響することが考えられています。とくに男性では、亜鉛欠乏により精巣の発達や機能障害が起こることが知られています。
また、男性より報告は少ないですが、女性でも生理に関わるトラブルと亜鉛不足の関与も考えられています。そのため、男女ともに亜鉛が不足しないように注意する必要があります。
参考:荒川 泰昭他.亜鉛と生殖.2008、日本臨床栄養学会.亜鉛欠乏症の診療指針 2018
傷の修復
亜鉛は皮膚の代謝に関わることで、傷の治りを早くする作用があります。亜鉛は皮膚に存在するコラーゲンの合成に関わるとされ、皮膚の細胞が作り変えるときに必要な成分になります。
そのため、亜鉛が不足すると、傷の治りが悪くなったり、皮膚トラブルが増えることが知られています。
うつ状態への影響
うつ病と亜鉛の値の低さが関連していることが示された報告があります。亜鉛は精神や行動への影響が関わっているとされています。
うつ病は生涯のうち100人に約6人がかかるとされ、ココロの風邪とも言われます。発症の原因は正確にはよく分かってはいません。ただ、脳の神経細胞の伝達がスムーズにいかないことが原因といわれており、亜鉛はこの神経伝達物質の合成に関わると考えられています。
バストアップ
亜鉛はバストにも必要な栄養を与えることも期待されています。女性ホルモンの働きのひとつに、女性のバストをふっくらさせてくれる働きがあります。その女性ホルモンの分泌に、亜鉛が関与するとされています。
亜鉛を含む食材
亜鉛はすべての細胞に存在するため、魚類、肉類、大豆製品、穀物類、ナッツ類など亜鉛を含む食材は多くあります。
そのため、動物性と植物性の食材をバランスよく食べることが推奨されています。下記の亜鉛を多く含む食材の表を参考にして、献立を考えてみてくださいね。
動物性の食材齢 | 植物性の食材齢 |
---|---|
カキ、うなぎの蒲焼、ホタテ、煮干し、しらす干し、かつお節、豚レバー、牛もも肉、鶏レバー、鶏もも肉など | 切り干し大根、たけのこ、枝豆、きな粉、納豆、厚揚げ、豆腐、高野豆腐、アーモンド、落花生など |
動物性の食材
亜鉛は、肉類、魚類などたんぱく質を含む食材に多いです。中でも、牡蠣には豊富に含まれており、重要な亜鉛の併給源となります。牡蠣は「海のミルク」と言われていて、亜鉛以外にも鉄やビタミン類が豊富に含まれているうれしい食材です。
鉄と葉酸が豊富なほうれん草と合わせて摂ると、貧血予防とたんぱく質の代謝を高めるとされ、おすすめな組み合わせです。ぜひ、旬の時期の冬にほうれん草と牡蠣を組み合わせた献立を考えてみてはいかがでしょうか?
植物性の食材
植物性の食材では、たんぱく質が豊富な大豆製品に多く含まれます。例えば、きな粉油揚げ、納豆、豆腐などがあげられます。
他には、アーモンドや落花生などのナッツ類にも含まれます。大豆は肉の畑とも言われるほど、良質なタンパク質が豊富に含まれています。動物性の食材と大豆製品をバランス良くとるのも良さそうです。
亜鉛の摂取量やタイミング
日本人の食事摂取基準(2020年版)によると1日推奨摂取量は成人男性11g、成人女性8gとなっています。一方で、平成28年国民健康・栄養調査における亜鉛摂取量は、日本人成人で8.8g、女性7.3gとなっていて、推奨摂取量よりやや少ないです。
亜鉛はカラダでは作られないため、バランス良い食事で1日の推奨摂取量を取りたいところです。普段の食事で亜鉛を充分に摂ることが難しい場合、サプリで亜鉛不足を補うことも効率的です。なお、サプリの摂るタイミングは基本的にはいつでも問題ありません。上限量を超えないように、続けやすいタイミングで摂取してください。
また、亜鉛は腸からの吸収率は30%と吸収されにくい栄養素です。下記の摂取のポイントも意識してみてくださいね。
- こまめに摂取する
- 吸収率が良くなる食材と摂取する(ビタミンC、クエン酸、動物性たんぱく質など)
【危険】亜鉛不足による亜鉛欠乏症
亜鉛が不足すると、次のような亜鉛欠乏症が起こる可能性があります。偏った食生活や過度なダイエットは亜鉛不足を起こす可能性もあるため、注意が必要です。
- 味覚障害
- 皮膚トラブル
- 頭皮トラブル
- 貧血
- 口内炎
- 食欲不振
- 生殖機能障害
- 生理不順
味覚障害
「味が良くわからない」「いつもと味が違う」「何も口にしていないのに、嫌な味がする」などの味覚障害は代表的な亜鉛の欠乏で起こる症状です。
亜鉛は舌にある味蕾の代謝に関わることで、味覚を正常化する働きがあります。そのため、亜鉛が欠乏すると味覚に対しての感度が下がるとされています。また、舌がピリピリすることもあるようです。
食事の楽しさをためにも、亜鉛の欠乏には注意が必要です。
皮膚トラブル
亜鉛欠乏により、皮膚の炎症やかゆみなどの皮膚トラブルが生じます。亜鉛は皮膚に存在し、たんぱく質の合成に関わります。そのため、亜鉛が不足すると、皮膚のターンオーバーがうまくいかなくなり、皮膚炎がおこることが知られています。かゆみや皮膚炎以外にも、爪の変形もおこることがあるようです。
頭皮トラブル
頭皮も皮膚の一部になります。そのため、手や足以外にも頭皮の毛根周囲にトラブルが生じるとされています。亜鉛不足は、男性の悩みでも多い、脱毛、抜け毛が増える、薄毛などの原因となります。円形脱毛症では亜鉛が不足している方が多いとされています。
貧血
亜鉛は血液細胞を作る働きをサポートするため、亜鉛欠乏でこの過程が障害されると貧血を起こします。中でも、スポーツ選手の亜鉛不足が知られていて、汗や尿からの亜鉛の排泄量が増えることが原因と考えられています。他には、妊婦の貧血の原因にもつながりやすいです。
口内炎
食事がつらくなる口内炎は亜鉛不足で起きやすくなります。口内炎は、舌や頬、のどの奥など口の中の粘膜におこる炎症です。ストレスなどがたまり、免疫力が落ちたときに起こりやすくなります。
亜鉛が不足することで、口の中の免疫力やたんぱく質の合成力が下がり口内炎が起こりやすくなると言われています。
食欲不振
亜鉛欠乏による食欲不振は、亜鉛不足の状態を悪化させる負のスパイラルを引き起こします。
亜鉛欠乏になると消化管の動きが悪くなったり、消化液の量が減ってしまいます。結果として、食欲不振につながります。
食欲不振になると、食事からの亜鉛摂取量がさらに減るため、亜鉛欠乏の状態が悪化する悪循環に陥ってしまいます。
生殖機能障害
亜鉛欠乏による生殖機能障害ではとくに男性側での報告が多くあります。亜鉛が不足すると男性の精巣の発達障害や精巣の機能不全が起こるようになり、男性ホルモンの分泌量が減るとされています。
精液中の亜鉛濃度と男性の不妊症には負の相関が認められたことも報告されています。
生理不順
亜鉛不足は、男性ホルモンだけではなく女性ホルモンへも影響があるようです。亜鉛不足により女性ホルモンのバランスが乱れることで、生理不順や生理痛が起こる可能性があります。
生理不順や生理痛は、多くの女性が経験する生理トラブルです。最近では、極端なダイエットや偏った食生活をする若い女性も多く、亜鉛不足になる可能性も言われています。生理不順は排卵が正常に行われていないことも多く、不妊の原因にもなるため注意が必要です。
亜鉛欠乏症の治療
亜鉛欠乏症と診断された場合は、亜鉛を投与して、亜鉛欠乏症でみられた症状の改善を確認することがすすめられています。
日本臨床栄養学会の亜鉛欠乏症の診療指針では、下記のような亜鉛欠乏症の症状と血液中の亜鉛の値によって、亜鉛欠乏症は診断されると記載があります。
皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、 発育障害(小児で体重増加不良・低身長)、性腺(精巣)機能不全、易感染性、味覚障害、貧血、不妊症
なお、上記の精巣機能不全とは、二次性徴発育不全、精子減少、性欲減退の症状になります。
ただ、上記の症状がみられても必ずしも、亜鉛欠乏症とは限らず、他の病気が原因の可能性も考えられます(診断基準の一つに「上記症状の原因となる他の疾患が否定される」とあります)。そのため、体調不良がみられたら、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
亜鉛の過剰摂取による健康被害
健康や妊活のために摂取した方が良いと思われる亜鉛ですが、一方で亜鉛による健康被害の報告もあり、過剰摂取には注意が必要です。
亜鉛を過剰摂取した場合は、吐き気・嘔吐・食欲不振・胃けいれん・下痢などの胃腸障害や頭痛などがみられます。他にも、貧血や神経障害などの報告もあるようです。
亜鉛欠乏症と診断されている場合は、かかりつけ医の指示にしたがった治療を受けるようにしましょう。また、亜鉛不足を感じた方でサプリの服用を考えている人は、サプリにある上限量や飲み方を守って服用するように注意してください。
参考:厚生省労働省eJIM
亜鉛と薬の相互作用
亜鉛は下記のような医薬品との飲み合わせの影響の報告があります。そのため、治療中の方は、亜鉛をふくむサプリを飲む際は医師や薬剤師に事前に伝えて飲み合わせをあらかじめ確認しましょう。
医薬品 | 影響 |
---|---|
ペニシラミン(関節リウマチ薬) | 亜鉛のサプリにより、ペニシラミンの体内吸収量が減少する可能性 |
キノロン系またはテトラサイクリン系抗菌薬「Cipro」「Achromycin」「Sumycin」 | 亜鉛のサプリと摂取すると体内に吸収される亜鉛と抗菌薬が減少 |
サイアザイド系利尿剤 | サイアザイド系利尿剤を長期に服用すると、体内の亜鉛量が減少する可能性 |
参考:厚生省労働省eJIM
適量の亜鉛を摂取することが大切
本記事では、亜鉛の働きや亜鉛欠乏症や過剰摂取による健康被害について解説しました。
亜鉛は、細胞をつくるなど代謝をサポートする働きをはじめとした、私たちのカラダを正常に保つために必須のミネラルです。そして、亜鉛が欠乏すると、皮膚トラブルや生殖機能への影響が起こることもあるため、不足しないような食生活を意識する必要があります。
ただ、一方で過剰摂取による吐き気や頭痛などの健康被害の可能性もあるため、過剰摂取には注意しながら取り入れていく必要がありそうです。
ぜひ、この記事を参考にして、自分にあった適量な亜鉛を摂取することを意識してみてくださいね。