※本記事は薬剤師が執筆しております※
妊活をしているのに「なかなか結果が出ない」と悩む方は多く、特に男性は「精子量を増やすにはどうしたらいいのだろう」と悩む方もいるでしょう。
妊娠する確率を上げていくためには、精子量を増やすのはもちろん、精子の運動量や正常な精子が多く存在すること、つまり精子の質も高めていくことが重要です。
今回は、精子量の増やし方から精子の質を高める方法まで、詳しく解説していきます。
目次
- 精子量平均値は?
- 精子量が減る原因とは?
- 精子量を増やす対処法
- 精子量が増えない場合
- 精子量が増えても妊娠に繋がらない場合
- 精索静脈瘤などの可能性も視野に入れよう
精子量の平均値は?
WHOの調べによると精液の平均量は1.4〜6mlで、自然妊娠が可能な最低量は1.5mlです。
1回の射精当たりの平均精子数は、精液1ml当たり1500万〜2億5000万個で個人差が大きく、自然妊娠には1500万/ml必要です。
精子量は加齢とともに減少していき、不妊の原因の50%程度は男性側にあります。また、精液量、精子数だけでなく、正常な精子の割合、精子の濃度、運動率等も妊娠には大きく関与しています。
自身の精子量や精液量を詳しく知りたい場合は、産婦人科や泌尿器科で対応しているので相談してみましょう。
精子量が減る原因とは?
精子量が減る原因には大きく分けて3つあります。造精機能障害、精路機能障害、性機能障害の3つの原因について詳しく説明します。
造精機能障害
造精機能障害は、精子を作る機能に障害がある状態です。
精子は睾丸の中の精巣内で作られていて、精巣上体を通過すると運動機能を持った精子に成長します。
精巣での精子形成や精巣上体での成長途中で異常が起きると、十分な量の精子が作られなかったり、精子の動きが悪くなったり、精子の奇形が発生したりしてしまいます。
原因は、精巣から心臓に血液を送る精索静脈が上手く機能せずに起きる精索静脈瘤や脳の視床下部から精巣へ働きかけるホルモンが分泌不足になる低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、遺伝子異常のクラインフェルター症候群(XXY)とY染色体微小紛失等があります。
おたふく風邪での精巣炎、抗がん剤治療、出生してから精巣が陰嚢に収まらない停滞精留の術後の影響でも起きるので、病歴、薬物使用歴も確認してみましょう。
精路通過障害
精子は精巣で作られ、精巣上体で運動機能を持ち、精管、射精管、尿管を通って外部に放出されます。
先天性の両側精管の欠損や精巣上体炎による閉塞、鼠径ヘルニアの手術後が原因で、精子が正常に作られていても通過できず、精液内に精子が出てこない無精子症になります。
閉塞部分は手術で再建する方法があります。
性機能障害
性機能障害には、勃起が上手くいかず性行為ができない勃起障害(ED)と射精ができない射精障害の2つに分けられます。
勃起障害は、動脈硬化や糖尿病で血流が悪くなることが原因で起こるので、生活習慣を見直すことが大切です。しかし、ほとんどの原因は心因性で、妊活を成功させたい気持ちが大きなプレッシャーになり勃起障害を引き起こします。
射精障害は、射精時に膀胱頸部が開いてしまい精子が膀胱に逆流してしまう逆行性射精や精液がでない無精液症、射精はできるが早漏や遅漏で本人が満足できない場合があります。
原因は、神経障害、糖尿病、妊活のプレッシャー、薬の副作用等様々です。
精子量を増やす対処法
精子量や精子の質の改善には、ストレスの発散、食事や生活習慣の改善、サプリメント摂取等が有効です。精巣内の細胞が精子になるまでは約60日かかり、精子が精巣上体で運動機能を持つまでは12日かかりますので、日々コツコツと取り組んでいくことが重要です。
ストレスの発散
強いストレスや不安な状況にいる男性は、精液や精子の数が減少することが明らかになっています。妊活のことに集中し過ぎてしまうと、結果が出なくて大きく落胆してしまい、妊活がストレスになってしまいます。
時には、趣味や運動等で気分転換をして、ストレスを発散していきましょう。
生活習慣の改善
肥満と痩せ過ぎは、精子量、精液量、精子の質が低下します。
海外の研究では、肥満の男性がダイエットを行い適正体重を維持すると、精子量は増加すると報告されています。
BMI(体重kg÷(身長m)2乗)で肥満度を計算でき、数値が25以上になると肥満です。自身の適正体重も確認し、生活習慣を見直しましょう。
良質な睡眠
睡眠不足は精子の量や質を低下させてしまいます。
睡眠中は様々なホルモンが分泌され、脳や内臓、自律神経、免疫系等の回復を行い、肥満を予防する効果があります。
睡眠時間が長すぎても逆効果です。7〜8時間睡眠を心がけましょう。
禁煙
喫煙は、精子量や精子の質に悪影響を及ぼします。タバコに含まれるニコチンの作用で全身の血流が悪くなり、勃起不全(ED)を引き起こします。
受動喫煙で女性の妊娠率が低下し、妊娠中は胎児への影響も深刻です。妊活を機に禁煙に取り組みましょう。
最近は、禁煙外来がある病院が増えてきています。自力での禁煙が難しい場合は、医師に相談して、禁煙補助薬を試してみるのもいいでしょう。また、薬剤師が在籍しているドラッグストアでも、禁煙補助薬は販売されています。
運動や筋トレ
運動や筋トレをすると肥満防止にもなります。また、筋肉が増えると男性ホルモンのテストステロンが分泌され、生殖機能が向上し精子の量や質に良い影響を与えます。
スクワットは下半身の筋肉トレーニングに有効で、下半身の血流改善や勃起に必要な骨盤底筋を鍛えることができます。
食生活の改善
精子の量や質を高めるには、今までの食生活を見直すことも重要です。
ここでは、妊活中に取り入れてほしい食べ物や栄養素を紹介していきます。
クレソン
クレソンにはストレス軽減作用があり、海外では妊活中の男性は積極的に食べるように勧められている野菜です。
また、ビタミン、葉酸、亜鉛、タンパク質も含まれていて、精子の量、質の向上に必要な栄養素を豊富に含んでいます。日本ではステーキ等のメイン料理に添えられているイメージですが、サラダやお浸し等の1品料理にもなります。積極的に取り入れてみましょう。
亜鉛
亜鉛は細胞分裂や免疫に必要な微量元素です。精子の生成に必要な物質で、不足すると精子量の不足や質の低下、勃起不全になります。
亜鉛は人間の体内では合成することができないので、食べ物から摂取が必要です。亜鉛は、牛肉、卵、チーズ、牡蠣、高野豆腐等に豊富に含まれています。また、医薬品やサプリメントがあり、効率よく摂取可能です。
シトルリンやアルギニン
シトルリンはスイカの種等ウリ科の植物に多く存在するアミノ酸で、血管拡張、抗酸化作用がありアンチエイジング効果がある物質です。
シトルリンはそのままでは吸収されず、アルギニンに変化して体内に取り込まれます。
アルギニンは体内で合成できるアミノ酸の一種で、成長ホルモン作用、血管拡張、免疫向上、疲労回復や美容にも効果がある物質です。
シトルリン、アルギニンを合わせて接種することで血流が良くなり、勃起不全(ED)の改善効果があります。アルギニンは体内での合成量は少ないので、サプリメントで摂取するのが効率的です。
サプリメントの摂取
妊活サプリメントは数多く販売されていて、持病がある方、組み合わせて飲む場合には注意が必要です。「多すぎてどれがいいのか分からない」と悩む方もいるでしょう。
男性妊活に推奨されるサプリメントは、亜鉛、マカ、アルギニンです。
亜鉛は、精子を作るのに欠かせない微量元素ですが、過剰に接種すると中毒症状が起きるので用法用量は必ず守りましょう。
マカは、南米ペルーのアンデス山脈で自生している植物です。ビタミン類、アルギニン等のアミノ酸を多く含んでいます。滋養強壮、勃起障害(ED)の改善が期待できます。
アルギニンには血管拡張の効果もあるので、勃起不全(ED)の改善したい方に適しています。
ただし、マカ、アルギニンは高血圧治療中もしくは低血圧の方は服用には注意が必要です。
長時間の腰掛け
最近は、パソコンを使う仕事が多くなり長時間座っている仕事スタイルが定着してきました。しかし、長時間の腰掛けは精子に悪影響を与えます。
精巣の最適な温度は33℃で、人間の体温よりも低い環境を保たなければなりません。
長時間腰掛けたままでいると陰嚢が温まってしまい、1℃以上上昇すると精子は約40%減少してしまいます。
時々、席を立って適度に動くようにしましょう。冬は保温性が高いインナーにも注意が必要です。
精子量が増えない場合
いろいろと努力してみたけれども、精子量が増えない場合は何らかの疾患が隠れていることがあります。
例えば、グレード3の重症の精索静脈瘤が見つかり、精子量が少なく、夫婦共に高齢で時間的余裕が少ない場合は手術を検討していきます。
若い夫婦は、一定期間は薬物治療、サプリメントを服用したり、生活習慣を見直し改善したりして様子を見ていきます。ただし、精索静脈瘤は進行性の疾患なので、定期的に診察を受けていきましょう。
もし、手術後に改善が見られない場合はパートナーの年齢を考慮しながら、人工授精や体外受精、顕微受精を検討していきます。
精子量が増えても妊娠につながらない場合
造精機能には問題はなくても、逆行性射精があると妊娠する確率は下がってしまいます。
逆行性射精は、トフラニールを服用し治療を行うことで、膀胱に逆流する精子を減らすことができ、妊娠の確立を上げていきます。
トフラニールは効果が出るまでに2〜3週間かかりますので、根気よく服薬を続けます。また、前立腺肥大症、緑内障、心臓病、低血圧の方は持病が悪化することがあるので、服用前に医師に必ず相談しましょう。
服薬しても効果が得られない場合は、膀胱内の精子を回収して人工授精や体外受精、顕微授精を行うことがあります。
精索静脈瘤などの可能性も視野に入れよう
精子量が増えない原因は、ストレス、生活習慣、喫煙習慣、肥満等が関係しているので、普段の生活を見直し改善していくことが重要です。クレソン、シトルリン、アルギニン、亜鉛等、妊活に効果があるサプリメントは手に入りやすいので試してみるのもいいでしょう。
それでも妊娠できない場合は、精索静脈瘤、逆行性射精等の普段は気づかない疾患が隠れていることもあり、手術や薬物治療が必要です。
自然妊娠が難しくても、現在は人工授精、体外受精、顕微授精等も進んでいます。妊活で悩んでいる方は、気軽に医師に相談してみましょう。