※本記事は薬剤師が執筆しております※
- 妊娠を希望しているけれども、なかなか妊娠できずに困っている
- 早めに検査や治療を受けた方がいいのか迷っている
- どんな検査やどんな治療があるのか事前に知りたい
このようなお悩みをお持ちではありませんか?妊娠を希望するのに、なかなか妊娠できない場合、早期に検査を受けて不妊治療を検討するのがおすすめです。不妊の原因が分かると、適切な治療を受けることによって、妊娠の可能性が高くなります。また、高齢になると妊娠する確率が低くなることが知られているため、不妊かもしれないと思ったときは早めに医療機関を受診しましょう。
本記事では不妊の原因と一般的な不妊治療の方法をご紹介します。
⽬次
- 不妊とは
- 不妊の原因
- 不妊治療の種類
- 不妊の検査方法
- 不妊治療の保険適用
- まとめ
不妊とは
不妊とは妊娠を希望する健康なカップルが避妊をしないで性交渉しているにもかかわらず、一定期間妊娠しないことをいいます。一定期間について、日本産科婦人科学会では、1年が一般的であると定義しています。
何らかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態が不妊症です。
不妊の原因
不妊の原因は男性側に問題があることも、女性側に問題があることも報告されています。どちらにも原因がなく、不妊の原因が不明である場合もあります。不妊かもしれないと思ったときは、男女ともに検査を受けることがおすすめです。
女性側の原因
不妊の原因が女性側にある場合、卵巣から卵子が排卵され、子宮に届くまでの間に不妊の原因がある可能性が考えられます。
- 排卵因子
- 卵管因子
- 頸管因子
- 免疫因子
- 子宮因子
- 加齢
それぞれ詳しく解説していきますのでご参考ください。
排卵因子
一般的に、月に1回月経がありますが、月経が起こっていても排卵が起こっているとは限りません。排卵が起こっているかどうかを調べるには、毎日基礎体温を測定する必要があります。毎日基礎体温を測定し、高温期と低温期の2相に分かれていれば正常に排卵が起こっていると推測できます。
甲状腺機能の異常などによって排卵が起こっていないと妊娠は成立しないため、排卵が起こっていない原因を探して治療をしなければいけません。
卵管因子
卵管は卵子や精子が通る道です。卵管が詰まっていると卵子や精子が移動できません。また、子宮内膜症などの炎症によって卵管が狭くなっていると、卵子が卵管に入りこむことができなくなり、不妊へつながります。
卵管のつまりを取り除く手術もありますが、手術しても妊娠の可能性が低い場合は、生殖補助医療が選択されるでしょう。
頸管因子
子宮頸管は排卵が近くなると精子が通りやすいように粘液が変化します。子宮頸管から分泌される粘液が少ないと、精子が子宮内に入り込みにくく、不妊の原因となります。
免疫因子
抗精子抗体を保有している女性は、子宮頸管に入ってきた精子を攻撃してしまうため、精子の運動率が低下します。精子が卵子に到達しにくくなるため、妊娠しづらいでしょう。
子宮因子
子宮は受精卵が着床し、胎児が育つ場所です。子宮筋腫や先天的に子宮の形に異常があると受精卵が着床しづらくなります。流産手術を繰り返し受けていると、子宮内が癒着したり、内膜が薄くなり、妊娠しにくい原因となります。
子宮内に癒着やポリープがある場合、手術により取り除く治療が選択されるでしょう。
加齢
加齢によって男女とも、妊娠する力が低下します。女性の場合、35歳前後から徐々に妊娠する力が下がりはじめ、40歳を超えると自然妊娠する可能性が低くなります。月経があるからといって、いつまでも妊娠できるわけではありません。
加齢による影響を受けないために、早めに治療を受けることがおすすめです。
男性側の原因
不妊の原因が男性にある場合は、以下のような原因が考えられます。
- 造精機能障害
- 精路通過障害
- 性機能障害
- 加齢
それぞれ詳しく解説していきます。
造精機能障害
男性不妊の原因で多くみられるのが造精機能障害です。精子の数が少ない、動きが悪いなど、精子をつくる機能自体に問題があり、精巣やホルモンの分泌異常が障害を引き起こすと考えられています。
1回の射精で卵子の近くまでたどり着く精子が多いほど妊娠の確率が高くなるため、造精機能障害がある場合は原因に沿った治療が行われるでしょう。
精路通過障害
精巣で作られた精子がペニスの先端まで通る道の途中で詰まると、精子を女性の膣内へ射精することができず、妊娠成立に至らない場合があります。
性機能障害
勃起不全(ED)、膣内射精障害など性交渉で射精できない障害です。EDの場合、ED治療薬を服用すると徐々に改善する可能性があるため、医療機関を受診して診断を受けましょう。
2022年4月の保険適用拡大によってED治療薬も男性不妊の治療に使用する場合、保険が使えるようになりました。どこの医療機関でも保険が適用されるわけではないため、保険診療可能か受診予定の医療機関へお問い合わせください。
加齢
女性だけでなく、男性も加齢による影響を受けます。一般的に35歳を超えると徐々に精子の質が低下すると言われています。
男女ともに年齢を重ねると妊娠しにくくなるため、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。
不妊治療の種類
不妊治療にはさまざまな種類の治療法があります。ここでは一般的な不妊治療について解説していきます。
タイミング法
タイミング法とは、女性の排卵時期を推測し、排卵のタイミングに合わせて性交渉を行う方法です。排卵予定日より前に受診して、経腟超音波検査で卵胞の大きさを測定し、排卵日を推定します。排卵日の2日前から排卵日までのタイミングで性交渉を行うと妊娠する可能性が高くなります。
ご自身で排卵日予測検査薬などを利用してタイミングをとっても妊娠に至らなかった場合や年齢が高い場合には、タイミング法を行わず、次のステップへ進むこともあるでしょう。
排卵誘発法
内服薬や注射で排卵を起こさせる方法で、排卵障害がある方に使用します。排卵があっても、タイミング法や人工授精の妊娠確率を上げるために使用する場合もあります。
主な排卵誘発剤は以下の3つです。
- クロミフェンクエン酸塩製剤およびシクロフェニル製剤
- ゴナドトロピン製剤
- ドパミン作動薬(高プロラクチン血症性排卵障害に使用)
内視鏡手術
内視鏡は検査にも治療にも使われ、主に以下の3つの手術があります。
子宮鏡下手術は、⼦宮鏡検査でポリープなどが⾒つかり、妊娠のために切除が必要であると判断された場合に勧められる手術です。
卵管鏡下手術とは、カテーテルを膣から挿入し、内視鏡で癒着部分を取り除き、卵管の通りを回復させる治療方法で、卵⼦や精⼦が卵管を通ることができない卵管性不妊症の⽅へ行います。
腹腔鏡下⼿術とは、卵巣嚢腫、⼦宮筋腫、⼦宮外妊娠などの治療をするために⾏います。
人工授精
人工授精とは女性の排卵の時期に合わせ、受精に必要な精子を届けるため子宮腔内に洗浄濃縮したパートナーの精子を直接注入する治療方法です。一般不妊治療の1つで、精子を注入した後は自然妊娠と同じ流れとなります。
妊娠成立のためにはタイミングが大切で、基礎体温や卵胞の大きさ、ホルモンの数値などを参考に排卵日を推測し人工授精の日程を決めます。
排卵誘発剤と併用して行う場合もありますが、併用する薬剤によっては多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群に注意が必要です。
生殖補助医療
生殖補助医療とは採卵及び採精から胚移植までの一連の流れをいい、体外受精と顕微授精は生殖補助医療に含まれます。
卵子を確実に取り出すために1週間程度、排卵誘発剤を使用することが多いでしょう。その後、超音波で観察しながら、卵胞を刺激して卵子を吸引します。卵胞を刺激する時や卵子を吸引する時に痛みを伴うため、麻酔を使うことがあります。
体外受精は採卵した卵子に精子をふりかけ受精卵を作る方法で、顕微授精は運動性の良い精子を1匹捕まえ顕微鏡で確認しながら卵子に注入する方法です。
体外受精または顕微授精で得られた受精卵を胚培養した後に子宮へ移植します。
不妊の検査方法
不妊の検査方法には女性側が受ける検査と男性側が受ける検査があります。それぞれの検査内容について解説していきます。
女性側が受ける不妊の検査
女性側が受ける不妊の検査は内診台に座らなければいけない検査が多くあります。子宮頸がん検診を受けたことがある方はイメージが湧くと思いますが、初めての方は抵抗があるのではないでしょうか。不妊の検査だけでなく、出産後まで内診台に座る必要があるため、徐々に慣れる方が多いようです。
ここでは、女性側が受ける不妊検査についてご紹介します。
内診・経膣超音波検査
内診は内診台と呼ばれる専用の診察台に座って、足を開いた状態で診察を受けます。
経膣超音波検査は内診台に座り、プローブと呼ばれる細い棒を膣の中に入れ、内部の様子を調べる検査です。子宮の大きさや、内膜の厚さ、卵巣の大きさなどを調べることができるため、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮がんなどの子宮の病気や卵巣のう腫などの卵巣の病気が分かります。
子宮卵管造影検査
子宮卵管造影検査は卵管が詰まっていないか、子宮の中の形に異常がないかを調べる検査です。X線造影室で行われ、子宮口から子宮内へ造影剤を注入し、子宮の形や卵管を確認します。
少し痛みをともなう検査ですが、卵管の通りがよくなるため、子宮卵管造影検査の後に自然妊娠する可能性もあります。痛みの軽減のため、医療機関によっては事前に痛み止めを使用する場合もあるようです。
ホルモンの検査
採血室で血液を採取して、女性ホルモンや甲状腺ホルモン、全身疾患に関係する項目を検査します。女性ホルモンだけでなく、男性ホルモン、卵巣を刺激する卵胞刺激ホルモンや黄体化ホルモン、母乳を分泌するプロラクチンも調べます。
ホルモンは月経周期によって変化するため、2回に分けて検査することが多いでしょう。
性交後試験(Huhnerテスト、またはPCT)
性交後試験とは、妊娠しやすいタイミングで性交渉を行い、翌日に女性の子宮頸管粘液を採取して運動している精子がいるかどうかを調べる検査です。正常に運動している精子がいない場合、女性が抗精子抗体を持っている可能性が考えられるため、抗精子抗体の有無を検査します。
男性側が受ける不妊の検査
男性側が受ける不妊検査は大きく分けて精液検査と泌尿器科的検査の2つです。一般的に女性よりも検査の負担は軽いでしょう。
精液検査
精液を採取して精液の量や精子の数、運動率などを調べる一般的な検査です。自宅で採取すると環境の変化を受けるため、医療機関内でマスターべーションで全量の採取をお願いするところが多いようです。
精液検査の結果は、検査日の体調によって変動することもあり、再検査することもあります。
泌尿器科的検査
泌尿器科的検査では、診察、超音波検査、血液検査などが行われます。
診察では不妊症に関連する過去の病歴、勃起不全などの問題がないかなどを確認し、男性生殖器の診察が行われます。診察と一緒に超音波検査も行われることが多いようです。
超音波検査では、陰嚢にエコープローブを当てて陰嚢・精索・精巣を観察します。診察と超音波検査で男性不妊の原因として多い精索静脈瘤の有無が確認できるでしょう。精索静脈瘤は手術を行うと改善の可能性が高く、手術後自然妊娠する方もいらっしゃいます。
血液検査では男性ホルモンや性腺刺激ホルモン、プロラクチンなどを調べて、造精機能障害の原因を探します。ホルモン検査だけでなく、染色体や遺伝子検査を行う場合もあるでしょう。
不妊治療の保険適用
2022年4月より、不妊治療の保険適用が拡大されました。一般不妊治療の人工授精等、生殖補助医療の体外受精及び顕微授精、不妊治療に使用される一部の医薬品も保険が適用されています。
保険適用になると、高額療養費制度の対象になります。高額療養費制度とは、1カ月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分が、あとで払い戻される制度です。
不妊治療の場合、医療費が高額になることが事前にわかっているため、事前に限度額認定証を申請しておくことがおすすめです。マイナンバーカードを保険証として利用する場合は、限度額認定証の提示がなくても限度額までの支払いでよくなります。
保険適用で不妊治療を受けるには、国の基準を満たした医療機関で治療を受ける必要があります。また、治療を受ける患者さんにも年齢制限や回数制限があるため、早期に治療を開始した方が良いでしょう。
まとめ
不妊にはさまざまな原因がありますが、検査をしても原因が分からない場合もあります。治療開始が遅れると、年齢を重ねてからの治療となり、若い時と比べると妊娠の可能性も低くなります。不妊かもしれないと悩んでいる方は、早めに医療機関を受診しましょう。
詳しい検査内容や治療方法については医療機関によっても異なりますので、治療実績の豊富な医療機関の情報をチェックしてください。