※本記事は薬剤師が執筆しております※
男性の不妊検査にはどのような種類の検査があって、どのような検査内容なのか疑問に思っていませんか?不妊症の原因は女性だけでなく、男性にもあると報告されています。妊娠を希望するカップルが妊活してもなかなか妊娠できない、不妊症かもしれないと思った時、男女ともに不妊検査を受けるタイミングかもしれません。
一般的な男性の不妊検査は保険適用されます。しかしながら、検査内容によっては保険が効かない検査もあり予算がかさむ可能性も考えられるため、男性の不妊検査の内容以外にも費用やリスクなども把握しておくと良いでしょう。
本記事では男性の不妊検査について網羅的に解説しますので参考にされてください。
⽬次
- 男性不妊の割合について
- 男性不妊の原因とは?
- 男性の不妊検査と料金
- 男性の不妊治療と料金
- 不妊が気になる場合は検査を!
男性不妊の割合について
不妊症とは何らかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態をいいます。
世界保健機関(WHO)の調査によると、不妊症のうち、男性のみに原因があるケースが24%、女性のみ41%、男女両方に原因がある場合が24%、 原因不明11%で、男性にも不妊の原因があるとされています。不妊症の原因は男性にも女性にも考えられるため、不妊検査は男女同時に受けるとよいでしょう。
晩婚化の影響もあり、不妊の検査や不妊治療を受ける方は増えています。2017年には、全国で約56,000人の新生児が体外受精によって誕生しており、同年の全新生児の約6%です。
男性不妊の原因とは?
男性不妊の原因は不明な場合も多いのですが、主な原因として分かっているものは以下のとおりです。
- 勃起障害などの機能不全
- 造精機能障害(無精子症・乏精子症・精子無力症)
- 精索静脈瘤
- 染色体異常
男性不妊の原因の多くは精子の数が少ない、動きが悪いなど、精子をつくる機能自体に問題がある造精機能障害です。精巣やホルモンの分泌異常が障害を引き起こすことが原因と考えられています。
1回の射精で約1〜4億匹の精子が放出されていますが、卵子の周囲までたどり着くことができる精子の数は数100匹以下といわれています。精子の数が少なかったり、精子の動きが悪かったりすると卵子の近くまで精子が到達できず、妊娠の可能性が低くなります。
また、精巣の静脈に血液が逆流して陰嚢部にこぶのようなものができる精索静脈瘤も男性不妊の原因の1つです。精索静脈瘤は手術による治療効果が期待でき、手術後は多くの方の精液所見が改善します。
男性の不妊検査と料金
男性不妊の検査は泌尿器科や不妊治療クリニックで受けるのが一般的です。初診時には、問診と触診などがあり、検査は精液検査、採血、尿検査、超音波検査などが行われます。採血では、一般検査の他にホルモン検査、必要に応じて抗精子抗体、染色体を調べ、超音波検査では、精索静脈瘤・精巣腫瘍の有無などが検査されます。
2022年4月より男性不妊検査の保険適用範囲も拡充されていますが、医療機関によっては自費診療となるケースもあるため、受診予定の病院へ事前に連絡しておおよその料金を確認するとよいでしょう。
不妊検査の種類
男性の不妊検査にもさまざまな種類がありますが、精液検査と泌尿器科的な検査に分けられます。一般的な検査から、問診においてドクターが必要と判断した検査も追加される可能性が高いでしょう。ここでは不妊検査の内容について解説していきます。
精液検査
男性不妊の基本となる検査で、ほとんどの方が受ける一般的な検査です。精液を採取して精液量や精子の数、運動率など、不妊治療を進めるうえで重要な情報を調べます。
精液は数日間の禁欲期間の後に、マスターベーションで全量を採取します。自宅で採取すると、時間の経過、温度の変化、紫外線などの影響を受けるため、正確な数値が得られないこともあり、病院内での採取をお願いしているところが多いようです。
精液検査の結果が分かるまでにかかる時間は医療機関により異なります。院内に検査設備がある場合はその日のうちに検査結果が分かりますが、検査設備がない医療機関では、後日受診して検査結果を聞く流れとなるでしょう。
精液検査の結果は、同じ人でも体調によって変動するため、再度検査する場合もあります。
診察・触診
初診の問診では、不妊症に関連する病気の有無や勃起や射精など現在の性生活の状況を確認されるでしょう。
触診では精巣などの視診、精巣のサイズ測定、男性不妊の原因として頻度が高い精索静脈瘤の有無についても確認されます。
抗精子抗体検査
抗精子抗体とは、精子を外敵とみなし、精子の動きを妨げてしまう抗体です。男女ともに抗精子抗体をもつ可能性があり、不妊の原因となります。
男性の場合、精液と血液は混ざらないようになっていますが、精巣の炎症や切り傷や擦り傷などにより、精子が血液中に入り抗体ができる可能性があります。
抗精子抗体が陽性であった場合には、精子の運動性を悪くするため、自然妊娠の確率は低くなるでしょう。なかなか妊娠しないときは、人工授精や体外受精、顕微授精へと治療が進む場合もあります。
超音波検査
陰嚢にエコープローブを当てて陰嚢や精巣を観察する検査です。適切な治療を受けることによって男性機能改善が見込める精索静脈瘤の診断に最も有用な方法で、まれに精巣がんが発見されることもあります。触診より違和感のない検査です。
染色体(遺伝子)検査<h/4>
染色体は、細胞内に存在する遺伝情報の基本設計図です。膨大な遺伝情報が棒状の形態に分類されており、次の世代に分ける役割もあります。人は通常46本の染色体を持っており、44本は常染色体、2本は性染色体です。
染色体異常で多いのはクラインフェルター症候群です。通常よりも染色体が1本多く、染色体の総数が47本となり、男性不妊の原因になります。
ホルモン検査
採血してFSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)、テストステロン(男性ホルモン)の値を調べます。いずれのホルモンも過不足なく分泌されているのが理想です。
FSHは精巣を刺激し精巣で精子を作るよう促し、LHは精巣内の男性ホルモンを作る細胞を刺激し男性ホルモンの分泌を促します。3つのホルモンが低下している場合は、ホルモン不足であるため、ホルモン治療が選択肢の1つとなるでしょう。
Y染色体微小欠失検査
Y染色体微小欠失は遺伝的な要因で男性不妊症となります。Y染色体微小欠失分析検査は、精子形成に重要な働きをもつといわれているY染色体上のAZF領域の欠失の有無や欠失している部位を調べる検査です。
Y染色体微小欠失分析検査によって、無精子症の方の精巣から精子が精巣内精子採取術で採取できるかどうかの可能性を予測することができます。
2022年4月から保険適用される検査になっていますが、厚生労働大臣が定める施設基準を満たす保険医療機関において行われる検査、1人1回限りなどの要件があるため、検査を受ける医療機関へご確認ください。
不妊検査の料金
不妊検査の料金は保険適用される場合と自費診療の場合で大きく異なります。2022年4月より男性不妊検査の保険適用範囲が拡大されていますが、医療機関によっても保険適用で検査ができるか自費診療になるか違うため、受診予定の医療機関に事前に確認しましょう。
染色体(遺伝子)検査とY染色体微小欠失検査の料金が高額となっており、自費の場合、それぞれの検査で約30,000〜50,000円かかることが多いようです。全額自費の場合は、全ての検査で約10万円かかる可能性もあります。
男性の不妊治療と料金
男性の不妊治療は原因によって治療方法が異なり、治療内容によって料金も異なります。ここでは男性の不妊治療と料金について説明します。
不妊治療について
不妊検査によって原因が判明した場合、適切な治療を受けることによって不妊原因が改善する可能性があります。以下の男性不妊原因の代表的な治療方法について解説していきますので続きをお読みください。
- 勃起不全(ED)
- 乏精子症や精子無力症
- 精索静脈瘤
不妊治療は医療機関によっても異なるため、実績のある医療機関で治療を受けることをおすすめします。
EDの場合
勃起不全(ED)が原因で不妊になるケースも多く報告されています。メンタル面が原因で、神経や血管に異常がないことが多いため、バイアグラなどのED治療薬が効きやすいといわれています。
心因性EDの場合には、ED治療薬を服用してもすぐに絶好期に戻るわけではありません。リハビリと同じようにゆっくり改善するまで治療を続けることが大切です。
2022年4月よりED治療薬を不妊症治療で使用する場合に限って保険適用の対象となりました。保険を使用する時にはさまざまな条件があるため、不妊治療を行っている医療機関へご確認ください。
造精機能障害(無精子症・乏精子症・精子無力症)の場合
造精機能障害の原因が不明な場合、コエンザイムQ10などのサプリメントやホルモン剤や漢方薬などの内服治療を選択されることもあります。根本的な治療方法がないことが多いため、人工授精や体外受精、顕微授精へ進むケースも考えられます。
無精子症の場合は、精巣内精子採取術(TESE)を行い、精子が見つかれば顕微授精が選択されるでしょう。
精索静脈瘤の場合
精索静脈瘤は精巣から体に還る精索の逆流によって起こり、男性不妊の原因の1つです。精索静脈瘤は手術によって治療する事が可能で、手術後には精液所見が改善することが知られています。
精索静脈瘤の場合は、手術をすすめられることが多いでしょう。
不妊治療の料金
不妊治療の料金も不妊検査と同様に保険適用される場合と自費診療の場合で大きく異なります。治療内容によりますが、手術を伴う自費治療の場合は数10万円程度かかるでしょう。詳しくは治療を受ける医療機関へ確認してください。
不妊が気になる場合は検査を!
日本で不妊治療に取り組むカップルは5.5組に1組といわれ、不妊の検査や不妊治療を望む人も増えています。
不妊の原因は女性だけでなく男性にもあると報告されています。妊活をしているけれどもなかなか妊娠しないと気になった場合には、男女ともに検査を受けましょう。原因が分かった場合、適切な治療を受けることによって早期に妊娠が実現する可能性があります。